栗村博士の発明品(第1話) | ★デイリー・ロク★
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「ゴキゲンに生きる」3000の知恵
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栗村博士の発明品(第1話)

「栗村博士、
 こんどはどんな発明をなさったのですか」
と、一人の記者が尋ねた。

「人間を透明にする薬じゃ」
栗村博士が答えると、
会場がどよめいた。

「そ、そんな事が可能なのですか」

「確かめてみればわかることじゃ」

博士は
緑色の液体が入った薬ビンを取り出した。

「君、飲んでみなさい」

「えっ」

「いいから、飲みなさい」

「は、はい…」

記者はしぶしぶそのビンを手に取り
「だから
 一番前の席はイヤだったんだよなぁ。
 オレ背が低いから、
 小学校のときからいつも一番前で
 損ばっかりしてきたんだよなぁ…」
と愚痴を言った。

「なにをごちゃごちゃゆうとるんだ」

記者は、悲しそうな目で博士をにらむと、
意を決したように
ビンの中身を一気にあおった。

彼の様子を、一同
固唾を飲んで見守った。

30秒が過ぎ、1分が過ぎた。

当の記者は、
きょとんとした表情のまま
動かなかった。


「何も起きないじゃないか」
後ろの方から声が上がった。

会場がざわつき始めた。

薬を飲んだ記者に、同僚が
「大丈夫か、気分は悪くないか?」
と尋ねた。

「うん、いや何ともない」

「こんな会見切り上げて帰ろうぜ。
 ばかばかしい」

「そうだな。
 あれ、博士はどこへ行った?」

「博士はそこにいるじゃないか」

「え、どこに?」

「前の席に座って、ニヤニヤしながら
 こっちを見てるじゃないか」

「俺には見えんぞ」

「何だって!?」

再び会場がどよめいた。


「諸君」
栗村博士はおごそかに説明を始めた。

「この薬は、脳内物質に働きかけ、
 服用するとき目の前にいた
 個人に関する認識をブロックするのだ。

 つまり、ある特定の人間を
 認識の中で透明にできる薬なのだ」

博士は、どうだと言わんばかりに
会場を見回した。

しかし、彼の期待に反して
会場は水を打ったように静かだった。

それどころか別の空気が流れ出していた。

「そんなものが何の役に立つんですか」
隅の方から揶揄したような声が上がった。

「ふん、想像力のないやつだな」
博士は口の端で笑った。

「君たちだって、顔も見たくない人間の
 一人や二人いるじゃろう。
 この薬を使えば、街で出会っても
 いやな気分にならずに済む。
 なにしろ見えないんじゃからな」

一人の記者が手を挙げて訊いた。
「服用するとき
 目の前にいる相手にしか
 効かないんですか」

「写真などで代用可能じゃ」

「効果の持続時間は」

「調整可能じゃ。
 1時間でも、1年間でも」

そのとき、薬を飲んだ記者が叫んだ。
「あっ。博士がぼんやりと見えてきた」
 

会見を終えて、控え室に戻った博士を
助手のレイコが迎えた。
「さっそく何社かの製薬会社から
 反応がありましたわ」

「そうじゃろう」

「売れるといいですね」

「ふん、金などいらん」

「え? じゃあ何のために」

「“いやなやつをブロックする薬”
 と称して売り出して、
 いずれ中身をすり替える」

「…」

「いやなやつを
 すごく好きになる薬とな」

「…」

「そうすると、その人にとって
 消したいほどいやなやつが
 本当にいなくなる」

「…」

「そしたら、少しは」
と博士は窓の外を見て続けた。
「世の中が平和になるじゃろう」

「博士…」
レイコは、感に堪えたような目で
博士を見た。


「ときに、レイコくん」
博士は振り返った。

「はい」

「これがさっき言った
 “すごく好きになる薬”なんじゃが」
と博士は薬ビンを取り出した。

「…はい」

「ひとつ飲んでくれんか。ワシの目の前で」

「イヤです」


栗村博士の春はまだ遠い。


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