【掌編小説】 おばあちゃんを大切に | ★デイリー・ロク★
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【掌編小説】 おばあちゃんを大切に

私は、毎日職場へ通うのに、
1時間ばかり通勤電車に揺られる。


ある日、混んだ車内に、
ずいぶんお年を召された女性が
乗り込んで来られた。

腰が曲がり、杖をついて
足元もおぼつかない様子だ。

混み合った乗客に押し出されるかたちで
私の席のすぐ近くまで来たので、
私は席をゆずろうと腰を浮かせた。

そしたら、すかさず
傍に立っていた中年のサラリーマンが
その尻を滑り込ませて座った。

なんという早業。

まあ、サラリーマン諸氏も
疲れていらっしゃるのに違いない。


次の日も似たようなことがあった。

乗り込んで来たのは、
昨日の老女よりも少し若い、
けれどかなりふくよかな白髪の女性で、
やはり杖をついている。

私はこんどは
「お座りになりませんか」
と、しっかりその人の目を見て
声をかけながら立ち上がった。

そしたらその女性は
「あら、わたしこう見えても
 まだ若いんですのよ」
と笑って座ろうとしなかった。

空いた席には、
学生風の男が座った。


そして、そのまた翌日のことだ。

ふと目を上げると、私の目の前に
長い髪を後ろで束ねたおばあさんが
立っていた。

とても小柄で、
しかもお疲れの様子だったので
「おばあさん、お疲れのようですね」
と立ち上がりながら声をかけた。

そしたら
「何をいう。ワシは男じゃ」
と、意外なほど低い声で応答されたので
とてもびっくりした。


そしてそのまた翌日。

電車は比較的空いていたが
座席はいっぱいだった。

色が黒くて背の高いおばあさんが
大きな荷物を背負い、
前のめりになって
よたよたと通路を歩いていた。

これまでのことがあるので、
私はどうしようかと迷っていたが、
まずいことに
そのおばあさんと目が合ってしまった。

「よ、よろしかったら…」
と私が立ち上がると、
そのおばあさんは急に背中を伸ばして
「ヒャッハァー!!」
と叫んだ。

それから白髪のカツラを脱ぎ、
顔の特殊メイクを引き剥がしながら
「びっくりしたでしょ!
 ボク偽善者を驚かすのが趣味なの!」
と大声で言った。

メイクの下から表れたのは
40歳ぐらいの男性の顔だった。

電車がちょうど駅に到着し、そいつは
ぴょんぴょん飛び跳ねながら降りていった。


そしてまた、翌日…。
私はしっかり目を閉じて
座席にすわっていた。

でも、そういつまでも
目を瞑っているわけにもいかず、
下を向いたまま
おそるおそる目を開けてみた。

そしたら、
茶色のゴム底の靴が目に入った。

ああ、年とった女性が履く靴だ。
おばあさんが私の前に立っているのだ…。

私はゆっくり顔を上げた。

そして「あ」と言った。

「お久しぶりね洋子さん」
と、その上品なおばあさまは微笑んだ。

「ど、どうぞ…!」
私はすぐに立って席を譲った。

おばあさまは
「ありがと」と言いながら腰かけると
「こんど敬一がね英国から帰ってくるの」
と、ニコニコしながら言った。

「えっ、敬一先輩、
 帰っていらっしゃるんですか!?」

「うれしそうね」

「ハイ! だって、
 高校の時から憧れだったんですみんなの」

「それでね」

「ハイ」

「帰国パーティを開こうと思うの」

「ハイ」

「あなたも来てくださる?」

「ハイ?」

「お嫌?」

「いえ、嬉しいです。
 でも、どうして私なんか…」

「見てたのよ」

「…?」

「ここ数日、
 わたしもこの車輌に乗ってたの」

「えっ…」

「あなたは、どんなに嫌なことがあっても
 お年寄りに席を譲るのを
 やめようとしなかった。

 すばらしいお嬢さんだわ」

「い、いやぁ…」
私はガラにもなく照れた。

「きっと敬一も気に入るわ」

「マジッすか」

「でもね」
と、おばあさまは急に真顔になった

「ハイ、なんでしょうおばあさま」
懸命にかわいらしく首を傾げた私に、
おばあさまは再び笑顔で

「その金髪とド派手な恰好と
 鼻ピアスとばっさばさの付け睫毛、
 なんとかならないかしら」

広島ブログ の「同じお題で書いてみよう」参加作品)
| 掌編小説 | | comments(3) |

コメント

ブラボ〜☆
さすがロクさんです!

これを読んでしまった後で、何かを書こうとする勇気が湧いてきませんww
| 銀蔵 | 2012/09/17 8:20 AM |
銀蔵さん、照れますがな…。
ところで、広島ブログの「同じお題で書いてみよう」に参加するのって、どこかにトラックバックせんといけんのじゃったっけ?
| 六郎 | 2012/09/17 6:38 PM |
あれ??
そこら辺はどうなんでしょうか・・?

河野先生が誰かを指名して、指名された人がお題と投稿日を決めることまでは理解してましたが・・
| 銀蔵 | 2012/09/18 7:34 AM |

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