掌編小説 | ★デイリー・ロク★
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「ゴキゲンに生きる」3000の知恵
おちゃらけ家族10年間の記録まだまだ更新中

栗村博士の発明品(第4話)

「昨今のクルマは、目がよくない」
後部座席でふんぞり返りながら
栗村博士は例の調子で喋っていた。

「はぁ。目ですか」
助手席の男がうんざりしたふうで応答し、
運転席の男に
苦笑いしながら目配せをした。

しかし構わず博士は大声で喋り続けた。
「ヘッドライトのことじゃよ。
 どれもこれも、ヤクザが
 ガンを飛ばしとるような目つきじゃないか」

「はぁ」

「それに比べ、昔のクルマは良かった
 愛嬌のある丸いかわいい目をしとった」

「あの…」

「それでワシは考えたんじゃ、
 クルマの『マユゲ』をな」

「え、マユゲですか?」

「そうじゃ。ヘッドライトの上に、
 運転者の心理状態に合わせて動く
 『マユゲ』を取り付けるんじゃ。
 運転者がリラックスしているときは
 クルマの眉も下がって柔和な表情になり、
 緊張しているときは
 クルマの『眉尻』もつり上がるわけじゃ。
 そしたら
 クルマどうしのコミュニケーションが
 ものすごくスムーズになるから
 事故も格段に減るはずなんじゃ」

「あの…」

「そもそも、事故の原因の多くは
 『思い込み』と『イライラ』じゃからな。
 そうそう事故原因といえば、
 ケータイを使いながら運転をする馬鹿者が
 まだ大勢おるな」

「あの、栗村さん?」

「バックミラーでそういうヤツが後続車だといつ追突されるかと不安でかなわん。そこでじゃ。ワシは考えたんじゃ。電光掲示板をクルマの尻に後ろ向きに取り付けてな、ほれあの文字の流れるやつじゃ。そして、そういう不心得者をバックミラーで発見したら運転席でボタンを押す。そしたら電光掲示板に『直ちにケータイの使用をやめなさい! さもないと通報しますよ!』などと表示が   

「く・り・む・ら・さん!」

運転席の男が、博士を振り返って
厳しい顔をしていた。

「な、なんじゃ」
栗村博士はひるんだ。

「書類ができましたので、
 ここに左手の人差し指で拇印を」

「うむ」

「シートベルト未装着なので
 今回は減点1だけですから、
 罰金はありませんのでね」

「うむ、すまんかった。
 ときにお巡りさん、さっきの話しじゃが」

「栗村さん、われわれも忙しいんです」

「電光掲示板のアイデアを
 警察で買ってくれんか」

「無理です」

「そうか…。
 それにしてもドアは自動で開かんのか」

「タクシーじゃないんです。
 パトカーですから」
助手席を降りた警官が、外から
後部ドアを開けながら言った。

「パトカーのドアが自動で開いて何が悪い。
 そういう固定観念が
 世の中の進歩を止めるんじゃ」

警官は物も言わずにパトカーに乗り込み、
そそくさと逃げていった。

「ふん」

博士は時計を見た。

せっかく助手のレイコを食事に誘ったのに、
約束の時間を1時間以上も過ぎている。

レイコは怒って帰ってしまったに違いない。

栗村博士の春はまだ遠い。




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栗村博士の発明品(第3話)

「諸君、今日私が発表するのは…」
と、栗村博士は言いながら
発明品にかけてあった覆いを外した。

「扇風機じゃ」

おおっ、と会場からどよめきの声が
上がるかと思ったら上がらなかった。

「ときどきすごい物を発明するから
 記者発表に顔を出しているんだが…」
「そろそろ博士も限界かもな」
記者席からひそひそ声が聞こえた。

その時一人の若い記者が手を挙げた。
「博士、その機械は
 小さな扇風機が3つ
 組み合わさっているだけのように
 見えますが」

「おお、よいところに気がついたな」

「いえ、見たままを言っただけです」

「うむ、それでこそジャーナリストだ。
 最近の記者どもは、
 何様のつもりか知らんが
 よけいな感想を付け加えすぎる」

「博士、ご説明をお願いします」

「そうじゃったな。
 だが、まずは口で説明するより
 実際にやってみた方がわかりやすい」

博士は、その奇妙な形をした扇風機を
部屋の隅に向けた。

そこには、コンクリートブロックを積んで
高さ2メートルぐらいの塀が作ってあった。

博士がスイッチを入れると、
ぶぅん、と音がして3つのモーターの
羽根が回り始めた。

「これが普通の風じゃ」

わかりやすくするために出ている
ドライアイスの煙が
壁に向かって一直線に流れている。

「そしてこれが・・・」
と、博士は白いボタンを押した。

すると、扇風機から出る風が
まるで竜巻のように
渦を巻いてうねり始めた。

そしてさらに
ブロック塀の背後に回り込んで
陰にあったバケツをひっくり返した。

おおっ、と会場からどよめきの声が
こんどは本当に上がった。

「驚くのはまだ早いぞ」
博士は言って、赤いボタンを押した。

風のうねりは止まり真っ直ぐになったが、
なにやら旗がはためくような音に混じって
重低音が聞こえてきた。

やがて風が強さを増していったかと思うと、
ブロック塀が大きな音を立てて崩れた。

「諸君。勘違いしないでほしい。
 風の強さで倒れたのではない。
 3つの扇風機の回転数を干渉させ
 波状の風圧で共振を起こしたのじゃ」
栗村博士は得意げだった。

「こ、これは、武器なのですか」

「いや、まだ実験の段階じゃから
 何に使えるかわからん。
 だが、少なくともこの機械は
 武器には使えん」

「…と、いいますと?」

「正面に生命反応があると
 危険を回避するように作ってある。
 たとえば、あそこにいる
 助手のレイコ君の方へ向けてみよう」

「あっ、博士、危ないことはおやめに…」

「大丈夫じゃ」

博士が機械をレイコの方へ向けた途端、
風速が急に遅くなった。

さらに、波状の風が竜巻状の風に変化し、
地を這うような動きでレイコの傍まで行き
足下で一気に吹き上げた。

「きゃっ」

レイコのスカートがめくれ、
下着が露わになった。

おおっ、と会場から
今日一番のどよめきの声が上がった。


「博士、セクハラですよッ!」
と、記者会見終了後の控え室で
レイコは栗村博士を睨んだ。

「いや、すまんすまん。
 風速はもっと
 遅くするはずじゃったんじゃが」

「『明日はきれいなパンツ履いてこい』
 って昨日おっしゃったのは
 こういう計画だったんですね」

「うん。しかしまさか
 真っ赤なパンツだとは思わなかった」

   だって勝負パンツなんだもん…」

「…え?」

「な、なんでもないですッ」


栗村博士の春はまだ遠い。


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ユキエおばさん

★デイリー・ロク★(旧)からの再録です。
・・・て、手抜きなんかじゃないやい!



どこのきょうだいにも
怪談好きがいる。

ユキエおばさんも
そんな人だったと母が言う。

アルバムで見ると
高等女学校の制服を着た彼女は
かなりの美人だ。

母の6人いるきょうだいは、
母と長兄の隆三おじさん以外
みなぱっちりとした二重まぶたで
睫毛が長い。

セピア色になった写真の中で、
髪を後ろで二つに分け
短い三つ編みにした
ユキエおばさんは、
かすかに微笑んでいる。


皇紀二千六百年の催しがあった年、
お盆にきょうだいやいとこが集まって
怪談ばなしをした夜のことが
忘れられないと母は言う。

当時十二歳のユキエおばさんの話は
カラカラに乾涸らびたミイラの手が
カサコソと部屋の中を
這い回るというものだった。

男の子も混じっていたが、みんな
ユキエおばさんのひと言ひと言に
きゃあきゃあ叫びながら
身をすくませて恐がったそうだ。

さあ寝ようということになっても、
誰も動くことができず
その座敷で夜明かしをしたんだそうである。

後で聞いてみると、その話は
モオパッサンという
フランスの小説家が書いた話で、

まだ年端もいかないユキエおばさんが
どうしてその小説を知っていたかというと、
長女のヤスエおばさんに
こっそり本を貰ったものらしかった。

長女のヤスエおばさんはまだご健在だ。
今年で90歳ぐらいになる。

「モオパッサン」「手」と
えらく古めかしい書体で
表紙に書かれてある文庫本を
母はアルバムと同じ箱に納めている。

ユキエおばさんの形見である。


ユキエおばさんは、
その5年後の8月6日の朝
広島で亡くなった。

十七歳だった。

遺骨は今も見つかっていない。
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栗村博士の発明品(第2話)

「ということは   
男は下唇を咬み、
やや間をおいて
「違法ではないということですね」
と栗村博士の顔を上目遣いに見た。

「さっきから何度も言うておるじゃろう。
 ぜったいに検出されん成分じゃと」
博士はソファにふんぞり返ったまま答えた。

「いえね」
と男は笑い、
「わが社としては、
 コンプライアンスをおろそかにできない
 わけでして」

「ふん、それを裏返すと、
 法にさえ触れなければ何をしたって
 かまわんと思っているということだ」

「ハハハ、言いますねー、博士」
と笑ったあと、男は急に真顔になって
「で、見返りは」

「金などいらん」

「え?」

「株を少し融通してくれればな」

「なるほど」


そんな会話が某所で交わされた数ヶ月後、
B社の牛乳が
ぐんぐん売上を伸ばしていることが
新聞紙上で話題になった。

「本当においしい牛乳は、
 味のよさばかりじゃなく
 明日も飲みたくなるかどうか。
 わが社はそれを追求しました」
と、B社はアナウンスした。

しかし一方で
「牛乳の中に常習性のある成分が
 混入されているのでは」
という噂も絶えなかった。

消費者庁が極秘裏に調査を行ったが
疑わしい点は何も出なかった。


儲かったB社は事業拡大を図り、
全国各地に新工場を建て従業員を雇用し、
乳製品や清涼飲料の新開発を行った。

それらはまたたく間に軌道に乗り、
B社は社屋を改築し、
それまでダサかったロゴマークも一新、
従業員に特別ボーナスも出した。

しかし
その頃から急激に売上が落ち始めた。

「どうしたことでしょう」
と、担当者が栗村博士の研究室へ
相談に訪れた。

「すまんな。他の発明に忙しくて、
 そんなことになっていようとは
 全然知らんかった」
と、博士は言い訳をした。

「やり方は何も変えていないのですが…」
担当者が工場のシステムや
例の薬剤の混入方法を説明したが、
さすがの博士にも
売れなくなった原因はわからなかった。


担当者が帰ったあと、
博士は急に思いついたように
「ちょっとコンビニに行って
 B社の牛乳を買ってきてくれんか」
と、助手のレイコに伝えた。

その牛乳のパッケージを一目見て、
博士は
「うーむ」
と唸った。

「どうかなさいました?」
とレイコが尋ねた。

「あいつらには秘密にしておいたのだが、
 実はあの成分は、
 麻薬のようなものではなかったのじゃ」

「常習性のある成分では
 なかったのですか」

「ワシはそんなものは作らん。
 体内に入ると
 脳がB社のロゴマークに反応するように
 なっておっただけじゃ」

「まあ」

「やつらロゴマークを
 勝手に変えおってからに」

「脳が
 新しいロゴマークに反応するようには
 できないのですか」

「無理じゃ。
 以前のように
 単色で単純な形ならともかく、
 こんな多色刷りで複雑な形状では
 どうにもならん」

「まあ」


   そうじゃ。株を早いとこ売らんと」
博士は焦ったように言った。

「レイコ君、証券会社に電話を入れてくれ。
 すぐ株を売る。
 そして、金が入ったら…」

「はい」

「家を買う」

「は?」

「二人の新居じゃ」

「はァ?」

「レイコ君、ワシと
 けっ、けっ、けっ…」

そのとき、
研究室の電話がけたたましく鳴った。

電話に出たレイコが
博士を振り向いて言った。

「B社が
 会社更生法の適用を申請したそうですわ」


栗村博士の春はまだ遠い。


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栗村博士の発明品(第1話)

「栗村博士、
 こんどはどんな発明をなさったのですか」
と、一人の記者が尋ねた。

「人間を透明にする薬じゃ」
栗村博士が答えると、
会場がどよめいた。

「そ、そんな事が可能なのですか」

「確かめてみればわかることじゃ」

博士は
緑色の液体が入った薬ビンを取り出した。

「君、飲んでみなさい」

「えっ」

「いいから、飲みなさい」

「は、はい…」

記者はしぶしぶそのビンを手に取り
「だから
 一番前の席はイヤだったんだよなぁ。
 オレ背が低いから、
 小学校のときからいつも一番前で
 損ばっかりしてきたんだよなぁ…」
と愚痴を言った。

「なにをごちゃごちゃゆうとるんだ」

記者は、悲しそうな目で博士をにらむと、
意を決したように
ビンの中身を一気にあおった。

彼の様子を、一同
固唾を飲んで見守った。

30秒が過ぎ、1分が過ぎた。

当の記者は、
きょとんとした表情のまま
動かなかった。


「何も起きないじゃないか」
後ろの方から声が上がった。

会場がざわつき始めた。

薬を飲んだ記者に、同僚が
「大丈夫か、気分は悪くないか?」
と尋ねた。

「うん、いや何ともない」

「こんな会見切り上げて帰ろうぜ。
 ばかばかしい」

「そうだな。
 あれ、博士はどこへ行った?」

「博士はそこにいるじゃないか」

「え、どこに?」

「前の席に座って、ニヤニヤしながら
 こっちを見てるじゃないか」

「俺には見えんぞ」

「何だって!?」

再び会場がどよめいた。


「諸君」
栗村博士はおごそかに説明を始めた。

「この薬は、脳内物質に働きかけ、
 服用するとき目の前にいた
 個人に関する認識をブロックするのだ。

 つまり、ある特定の人間を
 認識の中で透明にできる薬なのだ」

博士は、どうだと言わんばかりに
会場を見回した。

しかし、彼の期待に反して
会場は水を打ったように静かだった。

それどころか別の空気が流れ出していた。

「そんなものが何の役に立つんですか」
隅の方から揶揄したような声が上がった。

「ふん、想像力のないやつだな」
博士は口の端で笑った。

「君たちだって、顔も見たくない人間の
 一人や二人いるじゃろう。
 この薬を使えば、街で出会っても
 いやな気分にならずに済む。
 なにしろ見えないんじゃからな」

一人の記者が手を挙げて訊いた。
「服用するとき
 目の前にいる相手にしか
 効かないんですか」

「写真などで代用可能じゃ」

「効果の持続時間は」

「調整可能じゃ。
 1時間でも、1年間でも」

そのとき、薬を飲んだ記者が叫んだ。
「あっ。博士がぼんやりと見えてきた」
 

会見を終えて、控え室に戻った博士を
助手のレイコが迎えた。
「さっそく何社かの製薬会社から
 反応がありましたわ」

「そうじゃろう」

「売れるといいですね」

「ふん、金などいらん」

「え? じゃあ何のために」

「“いやなやつをブロックする薬”
 と称して売り出して、
 いずれ中身をすり替える」

「…」

「いやなやつを
 すごく好きになる薬とな」

「…」

「そうすると、その人にとって
 消したいほどいやなやつが
 本当にいなくなる」

「…」

「そしたら、少しは」
と博士は窓の外を見て続けた。
「世の中が平和になるじゃろう」

「博士…」
レイコは、感に堪えたような目で
博士を見た。


「ときに、レイコくん」
博士は振り返った。

「はい」

「これがさっき言った
 “すごく好きになる薬”なんじゃが」
と博士は薬ビンを取り出した。

「…はい」

「ひとつ飲んでくれんか。ワシの目の前で」

「イヤです」


栗村博士の春はまだ遠い。


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